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コミュニケーションについて、広告クリエイティブディレクターの話

そのソリューションは、世の中を巻き込めるのか?本屋大賞で考える。

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「コロナ克服の物語を」

マスター(以下)いらっしゃい。

わたし(以下)カフェオレください。

新型コロナの感染拡大にともなう「GoToトラベル」への東京都の対応が決まったね。「65歳以上と基礎疾患がある人は利用自粛をお願いする」ということだけど、65歳以上とした根拠って何なの?感染者数は「60代とかの年代で発表している」わけだし、あえて65歳と刻んでくるからには何か科学的根拠があったのかね?

 

65歳以上としたのは、人口統計で65歳からを「前期高齢者」と区分しているからでしょう。制度的に「65歳以上、基礎疾患のある人のキャンセル料はかからない」とするためではないですかね。当たり前ですが「65歳未満の人は感染的に安心」というメッセージではないですよ。

キャンセルの際に、年齢や基礎疾患の有無については自己申告で良いらしいので、ざっくり言うと「健康上の不安を抱えている人は、どうぞ安心してGoToキャンセルしてください。そして新たに予約しないでください」というメッセージかと思いますが。

 

あたしは64歳だし心臓病もあるので、要請されなくても自粛していたけどね。高齢者や基礎疾患があるような、もともと自粛していた層に対して重ねて自粛を促す対策って、対策と言えるの?

「行動したい人を止める」とか「行動しない人を動かす」というのが、対策とかソリューションだと思うけどね。「行動しない人を止める」のは「対策」というより余計なお世話というか。

 

マスターの気持ちは分かりますが。まあ、元気な高齢者も含めて、リスクが高い層を守るために改めて注意喚起したという効果はあるんじゃないですか?キャンセルを処理する旅行会社などの現場は大変でしょうが。

 

感染予防のためには自粛的な話ばかりになるのはしょうがないけど、なんかこう皆が主体的に「よし、それならいっちょやってみるか!」という気になるような、コロナに負けないソリューションは創れないものかね?

皆がベネフィットを実感できて、分かち合えるようなプロジェクト。即時的な効果だけじゃなくて、継続的な効果も期待できるような。

 

コロナとは全く関係ないですが、たとえば博報堂ケトルさんによる本屋大賞というプロモーションがあります。

ざっくり言うと「書店でもっと本が売れる」ようにという課題に対して、直接的に「本を買おう」とか「何かがもらえる」というキャンペーンではなく、「書店員が選ぶ文学賞を立ち上げたんですね。

これは、日ごろから書店の現場で多くの書籍を売っている店員さんたちが「読んでもらいたい」という視点で選ぶ賞です。芥川賞直木賞など権威ある受賞作だけではなく、「書店員として薦めたい本がある」という想いを反映したものでした。

書店員さんこそ毎日多くの本に接していますし、そういう目利きの人たちが薦める本ならば読んでみようという気になりますよね。

 

店員さんの手書きのポップとか、つい読んじゃうもんね。アマゾンの評価欄よりも、本への愛が感じられる気もする。

 

本屋大賞は、書店の現場のモチベーションがアップして、売り場の活性化にもつながる結果ももたらしました。実はこれが最も大きな収穫だったんじゃないでしょうか?

つまり「本の売上げアップ」という課題に対して、即効性がありそうな、広告を打つとかポイントキャンペーンをやるとかではなく、「書店員が主役になる、売り手と読み手をつなぐ、書店を活性化する、それを恒例化する」という、ストーリーのあるコンテンツを創って解決しようとしたわけです。

ソリューション自体をコンテンツ化すれば、そのコンテンツに関わる皆を巻き込んでステークスホルダーにすることができるでしょう。

皆が当事者になる、自分ゴト化していくソリューションです。即効性を追うのではなく、物語性という「コミュニケーションの構造」を構築していくソリューションですね。

 

結果をゴロンと与えられるのではなく、「いっしょに物語を作っていく」感じかな。店員の声がヒットを産み出していく、自分の声が形になったというのは、何よりうれしいもんね。

 

そうですね。それがたとえば1万人の声であれば、とりあえずその1万人は選んだ側なので薦めてくれそうです。商品の場合でも、100万人の声で作れば、その100万人は買ってくれそうです。

 

AKB48グループとかね。

 

秋元康さんという「仕掛人」はいるのですが、「皆で作り育てていく物語」ですね。本屋大賞の場合は、その賞の成り立ちについて書籍化するなど積極的に発信しています。

どんな人が、どんな想いで、どうやって作ったのか。そういった仕掛けの物語も込みで「本屋大賞」なんだと思います。「ソリューション自体のコンテンツ化」と言ってもいいでしょう。

 

昔は仕掛人って表に出てこなかったけどね。影の存在というか。

 

今は積極的に出てくることが多いんじゃないでしょうか。その方が関心が増すし、プロモーションのチャンスも増えますしね。

しかし一方、仕掛人が可視化される場合は、「この課題にそう来たか!やるね!」というような、仕掛けられる側が気持ちよく仕掛けに乗れる「手口の鮮やかさと深さ」がないと逆効果になる危険があります。

 

話が古いけど「マスクを2枚配る」ソリューションとか?ソリューションには、その課題にどんな決意で向き合い、深く考え、どんな便益をもたらしたいのか、時代や社会をどう認識しているのかといった、ソリューションを提供する側の想いが現れてしまうんだね。

 

その想いに、皆が共感しリスペクトするんですね。「プロジェクトX」で描かれる「地上の星」たちみたいに。

 

たしかに「プロジェクトX」は「人の物語」だよね。台湾のコロナ対策の取り組みは、天才IT大臣という「人」の存在も込みでの物語とも言えるね。

 

コロナの時代にあって、対症療法的な即効性のあるソリューションは当然大事ですが、皆が登場人物としてストーリーを共有できるような、物語性のあるソリューションを創っていくこともまた重要だと思います。

 

筆者については・・・

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