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ロックレス式パーキングとロックダウンしない社会。人を信じているのか、コストカットのためか?

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「ロックレスは誰のため?」

 

マスター(以下)いらっしゃい。

わたし(以下)コーヒーください。

きのう車を停めた道灌山下のコインパーキングに、ロックする板が無かったんだけどさ。初めてだよ。

 

最近ちょくちょく見かけますね。

 

機械の出っ張りを気にしなくていいので、すごく停めやすくて良かったね。車が大きいので、あの出っ張りがあると切り返しの時にめんどくさいんだよね。その点、機械がないと、とにかく枠内に停めればいいので、駐車が苦手な人にはかなり便利なんじゃない?

 

たしか「ロックレス式」って言うんですね。機械を気にせず停めやすいという利用者側のメリットもありますが、ロック板が無いことで、車が機械にぶつかって壊れるトラブルが無くなったり、メンテナンスのコストを減らせるという設置者側のメリットもあるらしいですよ。

 

工事も簡単そうだしね。地面に機械を埋めなくていいわけでしょ?

 

さあ、それはどうでしょうか・・・

 

それで、いつもの習慣で普通に停めて普通に料金を払ったんだけど、よく考えたら、あれって払わなくともロック板が無いから、そのまま出庫しようと思えばできちゃうんだよね。もしかして警報とか鳴るのかな?踏み倒す人っているのかね?

 

意外といないような気がしますけど。今度試してみたらどうですか?

 

いやいや、やめとくよ。でも、ずいぶん人を信用した仕組みだよね。そんなに信用しちゃって大丈夫なのかね。信用されると逆に裏切れないという人間の心理を利用しているのかな。

そういえば、普通のコインパーキングで、ロック板が上がってこないように、板の上にタイヤを乗せて停めているという不届き者を見たことがあるよ。上がっているロック板を強行突破したオフロード車も1回見たな。すごい音がしてたけど、あれじゃ機械が壊れちゃうよね。セルフレジというのもそうだよね。

あと、畑で獲れた野菜をその場で直売しているのを見るけど、あれも信用が前提だもんね。

 

野菜は直売用の自販機が開発されています。けっこうなお値段ですけれど。

 

エコバッグ万引きが横行する世の中で、ルフレジはかなりの性善説システムだよね。

 

店員さんの顔が見えるお店からモノを盗むという、リアルな実感を伴う万引きに対して、誰が困るかその場では顔が見えなくて、さらに目に見えるモノではない駐車料金を踏み倒す方が、心理的なハードルは低そうですね。

 

ところで、ロックレス式の場合、もし料金を踏み倒して出庫したら、車の持ち主ってバレるの?

 

ええと・・・今、Googleで調べてみましたが、「ロックフリー式」「フラップレス式」とも言うらしいですね。料金が払われなかった場合は、駐車場会社が、被害を受けたという理由で、備え付けのカメラで記録されたナンバーの情報開示を請求すると、車の所有者を教えてもらえるらしいですね。

 

ナンバー照会は、警察じゃなくてもできるんだ?誰でもできるの?

 

個人ではできないでしょう。ええと、ナンバーの照会を申請して国交省の審査が通れば、自動車の登録情報を管理している協会を通じて、有料で提供される仕組みらしいですね。自動車の登録情報は個人情報保護法の適用外みたいです。

 

車の持ち主が特定されて請求が来るのか。それでも逃げ続けていると、どうなるの?

 

どうなんでしょう。もし被害届が出ていれば犯罪になるんじゃないですか?たぶん前科のある車が次に停めると、そのカメラの情報がチェックされて、駐車場会社に通報が行くんだと思いますが。

 

なるほどね。対策はされているようだけど、じっさい商売として大丈夫なのかね?たとえロック板と監視カメラの設置費に差が無かったとしても、ナンバー照会の費用と、それでも踏み倒される損害のリスクが加算されるわけでしょ。

 

おそらくロック板を設置してメンテナンスしていくコストより、ナンバー照会したり、万一踏み倒された時のコストの方が低いと織り込んでいるから成立しているスキームなんじゃないですか。これは僕の勝手な想像ですけど。

 

だとしたら、人の良識を信じているかのように見せて、実はコスト削減を狙っているんだ。

 

というか、その両面じゃないですか?さらに、さっきマスターが言ってたように、ロック式に比べて圧倒的に停めやすいというユーザーのメリットがありますよね。そのメリットは、もし近くに別のロック式パーキングがあった場合には、選択肢として有利なんじゃないですか?

 

なるほど。こっちを信用してくれて、さらに便利に使わせてもらって、それで踏み倒すなんて、恩を仇で返すようなことはできないというか。ま、駐車する時にいちいち深く考えないけど、直観的には感じるかも。

 

パーキング会社の経営者が、そういう経営効率の視点で帰納的に考えているわけではなく、もしかしたら、人を信頼する社会に貢献したいという経営哲学を持っていて、このシステムを、そういう社会の起点にしたいという演繹的な発想なのかもしれませんね。そこは聞いてみたいところですね。

 

信頼が手段なのか目的なのか。はたまた両方なのか。

 

当然、会社にしてみれば、まずはパーキングというサービスを買っていただくお客さまへの信頼が無ければ、ビジネスの出発点に立てません。そういう意味では、ロックレスパーキングは、信頼関係の上に契約を結ぶビジネスの王道なのかもしれませんね。

 

なるほど。極端に言えば、ロック式はお客さまのことを信用しない前提のビジネスということも言えるかもね。

 

性善説が経営的にメリットをもたらしているのであれば、社会に対する企業の価値は高いですね。底流にしたたかな計算があったとしても。結果的に信頼が社会に広がっていくことにつながると思います。

 

今思ったんだけど、利用者の良識を信じてというか頼って、結果コストをかけないですむという考え方は、自粛という国民の良識に頼って、コロナ対策にかかる財政的、社会的コストをかけないというやり方と、どこか似ているような気がするね。

信頼が先か、コストが先か。国民を信じているからロックダウンしなかったのか、補償のコストをかけたくないからロックダウンしなかったのか。どっちなのかね?それとも、どっちもなのかな?

 

「国民性を信じて」というのと「国民性を利用して」というのは、反対の発想ですが、国民を信じているっていう方を信じたいですね。

いずれにしても、感染拡大という側面では、ソリューションは機能しているように思います。そのベースに「頼るに足る国民の良識があった」からこそ成立しているソリューションですね。

逆に言えば、そういう良識のある国民性が失われるような手を打つことが、最悪のソリューションとなります。

 

人にうつしたら罰金とか?

 

それは一見、課題解決の一選択肢のように見えるかもしれませんが、本質は「人とは信用ならないものである」とする人間観の選択だと思いますね。

 

それを言い出す人には、なにか人を信用できなくなったルサンチマンとかあるのかもね?

  

筆者については・・・

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