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コミュニケーションについて、広告クリエイティブディレクターの話

クリエイティブの現場は、プレゼンの連続。

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「クリエイティブディレクターは創る人?伝える人?」

プレゼンの本質はコミュニケーションです。そして、クリエイティブディレクターにとって、クライアントへのプレゼンの場だけがプレゼンではありません。

 オリエンの場からプレゼンは始まっています。オリエンの場でクライアントに「例えばこんな考え方は?」などとボールを投げることもあります。

そして、企画をつくり上げていくプロセスでも、まずはクリエイティブディレクターからスタッフへのブリーフというプレゼンがあり、スタッフから出てきた企画に対してディレクションする。このディレクションも、スタッフへのプレゼンと言えます。

そして企画の経過や結果を、営業さんやストラテジストなどの社内セクションに通さないといけません。これもプレゼンです。

 

さて、企画が決まったらタレント事務所にもプレゼンが必要です。経験から言うと、ここが最も慎重になるところです。ベースとなるコンタクトはキャスティングのスタッフが当たりますが、事務所への企画プレゼンはクリエイティブディレクターやプランナーの仕事です。

タレントサイドから見れば、やはり広告代理店はクライアントサイドに立っていると考えるので、そこを乗り越える信頼関係が必要です。バラエティー番組などがメインのタレントさんは割り切って考えてくれるので、ハードルは低いですね。ギャラも悪くないですし。

交渉に気をつかうタレントは、表現者としての本分はあくまで映画や舞台などであり、「広告は本業のイメージをそこなわない範囲で」という方ですね。この考え方は一面では正しいですが、やはり15秒とか30秒の世界で表現する広告の場合では難しいことがあります。

理想はタレントが本分とする活動と広告出演が相乗効果を生むというか、タレントも広告出演によって新しい芸域が開けるような結果になることです。こちらが本当にそう信じていないと、だいたい相手にバレます。

また、えてして本業のイメージを破った広告表現の方が、話題にはなります。そのメリットを説得できれば企画は通りますが、やはり初めてお付き合いする事務所の場合は難しいことが多いですね。

そんなこんなで、やっとクライアントへのプレゼンとなるわけです。というわけで、オリエンから、社内外のスタッフへのブリーフィング、ディレクション、そしてプレゼンまでと、全てのプロセスにおいてクリエイティブディレクターのプレゼン能力が重要になります。

 

また、プレゼンでは期待されて採用されたけれど、作品として完成したら「話が違うじゃないか」という事態も起きます。実制作となった段階で、技術的や予算的に難しいことが判明したり、30秒CMに、どう早く読んでも40秒かかるコピーを入れてほしいと言われたり。

そういうリスクを回避するために、外資系のクライアントに多いのですが、CMの全てのカット割りが演出レベルで詳細に描き込まれているストーリーボードや、実際の尺で編集したビデオコンテを求められることがあります。つまり、ストーリーボードが契約書であるという考え方です。

極端な場合は、スタンドインの役者さんで撮影、編集して仮のCMとして仕上げ、その映像で検討した後に本物のタレントで本番のCMを撮りなおすということもありました。このやり方は完成形とのズレがないので、クライアントにとっても制作者にとっても、リスクを最小化することができます。手間も費用も2倍近くかかりますが。

一方、コンテには無かった要素を入れる余地がなくなるので、現場のアドリブで面白くなるタレントを使う場合は向いていません。演出面でも、ヤクルトタフマンなどでごいっしょさせていただいた故・市川準さんのように、撮影現場でインスパイアしたアイデアもトライする監督の場合は、その面白さを引き出すことができません。

そういったクリエイティブの現場の可能性を引き出し、撮影現場や試写でクライアントに説得するのもまた、クリエイティブディレクターのプレゼンという仕事です。

 

筆者については・・・

 

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