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コミュニケーションについて、広告クリエイティブディレクターの話

オリエン返しが最善とは限らない。ニュートラルな発想でプレゼンを。

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「リモートはロジカルに提案する好機」

マスター(以下)いらっしゃい。

わたし(以下)コーヒーください。

うちみたいなお店の場合は、メニューの写真が美味しそうだったので頼んでみて、盛り付けが違うとかまずかったらお客さんをがっかりさせてしまうけど、広告の場合は、プレゼン通りの作品にならなかったり、効果がなかったという時は問題になるの?

 

そうですね。多額の費用をかけて効果を期待するわけですから「がっかりした」では済みません。

 

やはりメニュー通りの盛り付けと味を保証できないとね。プロなんだから。

 

費用対効果へのコミットを求められます。プレゼンテーションのパフォーマンスでごまかしがきくような甘い世界ではないですね。

逆にプレゼン時には未確定な部分があっても、というか、わざとクライアントの想像を膨らませておいて「このクリエイターが考えたのだから、きっと・・・」という期待感で決まってしまうケースもありますね。

 

あなたの場合、それはないでしょ。

 

オリエンはCMだったのに、例えばイベントの提案で返すというようなこともあります。「この課題を解決できるのはCMではありません」と言い切るわけですね。

 

それは怒られないの?クライアントのオリエンに逆らって。

 

そういうプレゼンでは、なおのことクライアントの「心を動かす言葉」が大事ですね。企画書自体がすでに一つの企画になっているような、納得できるストーリー性が必要です。

そういう提案は、いわば本命に対する穴馬となるので、特に競合プレの場合は、それ一本で勝負するのは難しいですね。

 

それはまた、なんで?

 

やはり第一印象としては「クライアントに逆らう」からですよね。指定プレの場合は、なんらかの形で仕事が発生することは決まっているので、お題であるCMの案もしっかり提案して、さらにそれを超えるソリューションとして、例えばイベントの提案をします。

一方、競合プレの場合は、「こっちが正しい」と言い切って、その企画と心中するのも潔いですが、リスクを分散して、CMを提案する「本命チーム」とイベントを提案する「穴馬チーム」に分けることもあります。1案しか提案できない場合は、オプションとして提案するとか。説得力は弱くなりますが。

 

保険をかけるわけね。そして「穴馬」っていうのもピンとこないけど。

 

では、オリエンにニュートラルな案としましょう。「ニュートラルな案」をいくら熱く提案しても、クライアントの宣伝部としては、CM制作のオリエンを上層部にオーソライズした手前、結果的にCMを作らなくなったとは言いにくいですよね。いわば自分たちが練ったオリエンを否定することになってしまうので。

逆に、経営トップに対するプレゼンの場合は、そういうニュートラルな案を選んでいただきやすいですね。僕も、トップにそういうオリエン返しではない提案をして、採用していただいたことが多くあります。もっとも宣伝部にはあとで・・・

 

怒られたと。

 

結果的にオリエンシートをつくった宣伝部はいい気持ちはしなかったでしょうが、「売れるのはこっちだ」という確信がありましたので。その確信と目からウロコの鮮烈さが、オリエンの場で刺さったんだと思います。

もっとも毎度逆らっているわけではありません。ふつうはCMのオリエンにCMの企画で返しますよ。また、誰がプレゼンを受け、誰が最終判断を下すのかによって、そういうニュートラルな提案が通るかどうかは決まります。

プレゼンの場で経営や宣伝のトップが、「これで行こう!」と即断してくれる場合はニュートラルな案が通る可能性が高いですが、プレゼンを受けた担当者が決定権者に上げて、そこで判断される場合は通りにくいでしょう。なぜその案がいいのかを説明しにくいですから。

 

プレゼンに参加していない人が決めることって多いの?

 

プレゼンの場に参加していなかった多くの社員も含めて投票で決める、といったケースもあります。

 

プレゼンの場でおじさんにはウケても、女子社員にはウケなかったりとかありそうだもんね。

 

なによりも「うちの会社、いい広告つくってるよね」という社員の共感が得られなくてはまずいですものね。

さらに、ターゲットが若物や女性などの場合は、ターゲットに近い若手社員の票が多く集まったという事実が、その企画を上層部に上げる際のエビデンスになるという理由もあるでしょう。

そういう場合は、企画書は見ずに、CMであればコンテだけが独り歩きするので、期待感を盛り上げかつ分かりやすいコンテにすることが重要です。

一方、官庁の場合は、企画書一式をプレゼンに先立って提出してある程度検討された後に、確認的なプレゼンを行うことも多く、提出時の企画書の出来そのものが成否を決することになります。この場合は企画書が独り歩きするわけですから、プレゼンテーターのパフォーマンスに頼らないロジカルな流れや、見る人によってブレない書き方が重要となります。

 

でも、やっぱり出来上がった作品が全てなんじゃない?プレゼンの中身とか、どういうプロセスで決まったとかは、視聴者にしてみれば関係ないことで、完成作品しか見られないわけだしね。

 

企画の前提となる分析や戦略はとても重要ですが、企画書を見ていない人たちにヒットしなけりゃ意味ないですね。それを忘れると、特に競合プレの場合、勝つことが目的になってプレゼンのパフォーマンスが行き過ぎることも起きます。

弦楽四重奏の生演奏をバックにプレゼンしたとか、拍手する観客役のエキストラを仕込んでプレゼンしたとか、タレント本人を連れてきて挨拶させたなどの逸話もあります。どのプレも「そんなプレゼン上のパフォーマンスは、商品が売れることとは関係ない」とお叱りを受けたらしいですが、まあ当然でしょう。

 

やっぱり企画の中身で勝負しなきゃね。最近はオンラインのプレゼンが増えているんでしょ?そういうプレゼンのパフォーマンスはもう出番がないんじゃない?

 

モニター越しの場合は、クライアントとクリエイターが空気を共有するようなプレゼンは難しく、そういったパフォーマンスは力を失っていきますね。プレゼンのニューノーマルが始まっているのでしょう。

ソリッドでクールな説得力がますます重要という気がします。クリエーターは、オンラインを前提とした新しいプレゼンスキルを磨くことですね。オンラインだからこそ心に残る「言葉の力」が大事になっていくと思います。

 

オンラインならではの説得力を追求するということかな。

 

その意味では、先ほど言っていた「オリエンにニュートラルな提案」をクールにロジカルにプレゼンするには良い環境と思いますね。もっとも、その場の「空気」を感じながら「目くばせ」のような無言のコミュニケーションで、プレゼンの流れをアレンジしていったり、そんな絶妙な技が使いにくくなりました。これは困ったことです。

 

筆者については・・・

 

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