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東京都、会食時の「5つの小」要請。ウィズコロナの日常で生まれる「おひとりさま」と向き合う。

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「新・おひとりさま誕生」

マスター(以下)いらっしゃい。

わたし(以下)コーヒーください。あれ、お店のレイアウト変えました?

そう。とうとう東京の新規感染者も500人を超えたしね。テーブルにつき椅子一脚という、一人掛け席を増やしたよ。密度を低くするということもあるけど、「おしゃべりは控えてね」という意味で。そういえば、小池都知事が会食時の留意点として「5つの小」を発表したね。

 

「小人数」「小一時間程度」「小声」「小皿」「小まめにマスク、換気、消毒」の「5つの小(こ)」ですね。6つめの「小」は「小池のお願い」というオチでしょうか。SNSとかでいじられるのを狙っているとしたら「やるな」という感じですね。

 

「小一時間」にはレトロなセンスを感じて良いね。でも若い人はあんまり使わないんじゃない?そして「少人数」とは言わずに、無理やり「小人数」とはよく考えたね。都知事からの要請というより、給食当番からの注意みたいで、「小」学生には分かりやすくていいんじゃない?

 

またそういう皮肉を。覚えやすく工夫してくれているんじゃないですか。しっかり守らなきゃいけませんよ。小池都知事の言葉のセンスはともかく、もともと一人客が多かったから、一人席にしてもあまり違和感ないですね。ゆったりしていて、いいんじゃないですか「おひとりさまカフェ」

 

「おひとりさま」って、一人で行動するのが好きな人のこと?

 

もともと「おひとりさま」とは、生涯独身の女性のことを指していました。シングルライフを謳歌するというポジティブな意味を込めて。でも、今は「一人でいることを楽しむ人」というように、もっと広い意味で使われることもありますね。

 

ああ、孤独のグルメね。

 

一人を好む人は昔からいたんですが、そういう人たちのことも「おひとりさま」と呼んでみたんですね。元来の「おひとりさま」は人生観で、単なる行動様式ではないのですが。ともあれ、するとそこに「おひとりさまマーケット」ができたんです。

積極的に単独行動を楽しむ人たちの欲求をつかんだマーケットですね。たとえば「おひとりさま旅」とか「おひとりさまグルメ」とか。独身者向け市場というわけではありません。

 

ひとり焼肉とかも、そうなのかな?まさに孤独のグルメ

 

孤独のグルメのおかげで「一人めしはわびしい」というイメージは無くなりましたね。「おひとりさま」というのはネガティブなことではないと。

 

五郎さんの風情が、わびしくないからっていうのもあるんじゃない?それに五郎さんは経営者だけど、自ら営業マンだよね。もともと人嫌いというわけじゃないだろうし。

 

確かにキャラクター設定のうまさや、松重豊さんというキャスティングの妙もあるでしょうね。でも、なんといっても成功の要因は、一人めしという孤独な外形と、自身と対話する内面的な世界の豊かさのギャップが描かれているからでしょう。

孤独のグルメが五郎さんの「おひとりさま」世界だとすれば、「おひとりさま」とは見た目は孤独だけど、その人の中には想像力の豊かな世界が広がっている状態ということですね。

 

ほんまかいな。

 

タイトルも「孤独なグルメ」としなかったところが深いですね。「孤独な」だと「一人だけで食べるグルメな人」という外形を言っているだけですが、「孤独の」とした言葉の底に「孤独を愛する人の」グルメとか、「孤独だからこそ分かる」グルメとかの意味が秘められているからです。お、いいこと言ったような気がする。

 

思いつきでテキトーなことを。

 

ポジティブに一人であることを楽しむ、ツルまない自由な解放感、自己との対話、内面を見つめる時間を大切にする人のための商品やサービスを提供するのが「おひとりさま市場」と呼びたいですね。

 

「おひとりさま」っていえば、ソロキャンプが流行ってるらしいけど。あたしらが林間学校とかでやってた、わいわいキャンプファイヤー囲んで歌っちゃうのとは逆のキャンプだよね。

 

マスターのキャンプのイメージも、また古いですね。ソロキャンプは確かにブームのようですね。本もたくさん出ているし、ソロキャンプYouTuberとかいますもんね。軽バンに車中泊してカップ麺食べて帰ってくる人、ミニマムな装備でサバイバル的に自然に溶け込む人、道具や料理に凝る人、自分専用の山を買っちゃった人もいます。幅はありますが、それぞれに良さがありますね。

僕も大学の頃はソローの『森の生活』の世界にあこがれて、フラッとバックパック担いで奥多摩まで行ったりしていました。テント張って、川の水で割ったウィスキー飲んで、昼寝して帰ってくるという、だらけた感じでしたけど。ただ、日本ではどこでもキャンプしていいというわけではありませんので注意が必要です。

 

確かに一人の方が、自然との対話というか一体感はあるんだろうね。でも、ひっそりとソロキャンプするのは分かるけど、それを、YouTubeで公開するのはソロ感がないような。「ソロをシェアする」ってことでしょ?

 

別にいいんじゃないですか?SNSとかって、そういうものですからね。

 

ふーん。コロナの影響で、世の中全体に団体行動は少なくなっているよね。「おひとりさま」は増えていくのかな。あたしはキホン一人が苦手なので、ソロキャンプは無理。やっぱりキャンプファイヤー派。ところで、あなたはオンライン会議とか飲み会とかはやっているの?

 

オンライン会議はよくやりますよ。会議室でリアルにやっていた時は、居眠りしている人とか、スマホをいじっている人とか、鼻ほじっている人とかいても、なんとなく風景の一部と化していたので、そんなに気にならなかったですけれど、ビデオ会議だととたんに気になりますね。一つのフレームの中に一人の顔がありますから。

それに、今までは合いの手を入れるだけでも会議に参加してる感があった人が、それを封じられて終始無言で、存在感が無くなってしまって「ちょっと悲しいな」ということもありますね。

 

それは悲しいね。「そういう人はいらない」ってなっちゃうと、さらに悲しいね。オフラインだったら、いい感じのムードメーカーだったりするのかもしれないのにね。

 

オンライン会議だと、どうしても無駄口をききにくいクールな進行になりがちですからね。合いの手入れた人が「すみません、音声ミュートにしてください」とか注意されたりして。合いの手も、微妙にタイミングがズレて決まらなかったり、流れを乱すというか。オフラインなら良い潤滑油になるんでしょうが。

 

オンライン飲み会は?オンライン飲み会って、今まで一堂に会して飲んでたのを、それぞれ別の場所で飲んでるだけでしょ。飲み物も食べ物もバラバラで。オンラインにしてまでツルんでて楽しいのかねと思っちゃうけど、あたしらオヤジは。

 

いや、「あえてツルむ」っていうことが、今こそ大事なんじゃないですか?オンライン飲み会といったって、ずっとおしゃべりしながらとか、同じ動画を見ながら飲んでいるわけじゃなくて、オンラインでお互いの気配を共有しているけど、それぞれが別のことをしながら飲んでいるということもあるようですし。オンラインもくもく会みたいに、それぞれが別の場所で黙々と仕事をしていても、オンラインでつないでいる方がはかどるとかいうこともあるようですし。

コロナを機に、オフラインであれオンラインであれ、もう誰かとつながること自体がめんどくさいというかネガティブな社会に固定されてしまう方が、僕は怖いですけどね。そういう意味で、オンライン飲み会はどんどんやっていいんじゃないですか。ソロキャンプは「日常ありきでソロという非日常を楽しむ」場ですが、「日常そのものがソロ化していく」のは、どうもね。

 

オンラインでも何とか誰かとつながっていたいという人と、もうつながること自体がめんどくさいのでいつも一人でいる、という人に分かれていくのかね。または、オフラインだったからこそなんとか人とつながることができていた人が、オンライン化によって関係を絶たれてしまうとか。

 

誰かと「つながっていたい人」と、誰とも「つながりたくない人」と、誰とも「つながれない人」が固定化してしまうことも考えられます。そのような人たちを支える新しい「おひとりさま」向けの市場やサービスが生まれていくのかもしれませんね。

 

筆者については・・・

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