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コミュニケーションについて、広告クリエイティブディレクターの話

小池都知事の「ひきしめよう」。対策は頑張っていても、コミュニケーションはいまいち。

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「ワークしない語呂合わせ」

マスター(以下)いらっしゃい。

わたし(以下)カフェラテください。

昨日来たお客さん、70代くらいのご婦人だったけど、コーヒーを飲み終わって席を立つときに、自分が座っていたイスとテーブルをアルコールでていねいに拭いていたんだよね。次に使う人のことを気にかける行動に感心して話しかけてみたんだよ。

「自分が座る席を消毒するお客さんは多いですが、そうやって自分が使ったあとを消毒される方は初めてです」ってね。そうしたら「他人のことを気づかうことが、けっきょくは自分を守ることになると思って」という返事だった。

「うつらない」と同じくらい「うつさない」を心がけていて素晴らしいなと。あなたがよく「利他の行動が自分を救う」と言うけど、しっかり考えて行動している人も多いと感じたね。

 

そうですね。多くの高齢者はかなり慎重に行動していると思います。これからは、行動を促したり止めたりするためのメッセージは、コミュニケーション・ターゲットをしっかり意識して発信していくことが大事です。その視点では、若者を中心とした層に刺さるコミュニケーションでなければなりません。

 

そういう意味では、先日、小池都知事が発表した「ひきしめよう」は、若者には刺さらないダサいメッセージだと思うけれど。そもそも語呂合わせというフォーマットがいかがなものか。

「5つの小」の時にも思ったんだけど、その中の一つは「会食は小一時間」でしょ。今どきの若者が「こいちじかん」なんて言うかね?試しに、街で若者に「小一時間」の長さを聞いてみればいいと思うよ。

「小一時間」とは正確には「わずかに一時間に満たない時間」のことを言うので、まあ、50分くらいを指すわけだよね。「小一時間」と言うより「一時間以内」の方が正確に伝わるはず。伝えたいという真剣さがあるなら、「小一時間」とか無理な語呂合わせに走らず、「一時間まで」と言うべきでしょう。

 

小池都知事が受賞した流行語大賞の「3密」はとても分かりやすく秀逸でしたが、これは言葉遊びの語呂合わせではなく、科学的な根拠に基づいた「3つの密」でした。そもそも「3つの密」は官邸と厚労省が言い出したことです。

英語で「Three Cs (1.Closed spaces 2.Crowded places 3.Close-contact settings)」として海外にも発信し、ニューヨーク市議会のポスターなどでも使われました。こういう語呂合わせであれば、「機能するコミュニケーション」となります。

 

さらに小池都知事「ひきしめよう」を発表したね。おさらいすると・・・

引き続きテレワーク、時差出勤

基本を徹底、マスク・手洗い・消毒

食事を複数人でとる際はマスクで会食

面倒でもこまめな換気

夜のお酒は少人数・短時間で

ウイルスの感染予防に一緒に取り組みましょう

なんか無理やり「ひきしめよう」を頭にもっていきたいための強引な感じだね。とってつけた言葉の組み合わせなので覚えにくいし。

 

たとえば「料理の基本、さしすせそ」は有名ですが、これは「さ・砂糖」「し・塩」「す・酢」「せ・醤油(せうゆ)」「そ・味噌」という和食の基本調味料のことで、覚えやすく、しかもその投入順まで示唆している、秀逸な語呂合わせになっています。

「ひきしめよう」は、それとは対極の駄作ですね。全てのフレーズが、キーワードで語呂合わせになっておらず、それを修飾する語で無理やり語呂合わせにしているわけです。

元のフレーズからキーワードを抽出すると、「テレワーク」「時差出勤」「マスク、手洗い、消毒」「マスクで会食」「こまめな換気」「酒席は少人数・短時間」「いっしょに取り組みましょう」となります。

一方、語呂合わせのための修飾ワードを抽出すると、「引き続き」「基本を徹底」「面倒でも」「ウイルスの感染予防」となり、このワードはどの項目にも組み合わせられる「語呂合わせ要員」に過ぎません。こんな修飾ワードを使って語呂合わせするならば、同じ内容で、このようにも成立しちゃいます。

小まめな換気を面倒でも

一時間を目安に少人数でマスク会食

結局大事なマスク・手洗い・消毒

油断せず、夜のお酒は少人数・短時間

リモートワーク、時差出勤を引き続き

ここが正念場、一緒に取り組みましょう

しかも、さらにつっこむなら、「5つの小」では、「小まめ」「小人数(こにんずう)」と言っていたのに、今回は「こまめ」「少人数」と言っており、表記の統一性がありません。コピーライターとしては失格ですね。

コピーライティングは拙いですが、こういう語呂合わせが「ダサい」と感じない層に対しては、きっと有効なのでしょう。

 

「料理の基本、さしすせそ」のように「切れ味と深さで一本!」というレベルであれば語呂合わせも味があるけれど、ここまで切れ味も深みも無いとね・・・。

 

広告では「人の記憶に残るブランドは3つまで」と言われます。上位3ブランドに入ることが大事です。それに準じて言うなら「3密」は記憶に残せても、「5つの小」や「ひきしめよう」の6項目は記憶に残しにくいフレーズと言えます。そのへんも含めて、今回の「ひきしめよう」は残念賞でしたね。

 

たとえば、さっき話したようなご婦人の想いに応えるメッセージになっているのか?それが「公」が発信するコミュニケーションには求められると思うけどね。「そこに民を救う真剣さはあるのか」と言いたい。

リーダーの皆さんは、黒塗りのレクサスやアルファードに乗ってばかりじゃなく、たまには電車に乗ったりカフェで語ったり、街の空気を肌で感じることが必要じゃない?

 

筆者については・・・

 

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